2021年7月15日木曜日

山田うどんが満を持して送り出す新事業!『埼玉タンメン 山田太郎』オープン直前レポwithえのきどいちろう


山田うどんの山田食品産業が
新しい事業を立ち上げると聞き、
友人の山田者えのきどいちろうと待ち合わせて
プレオープンの13日に乗り込んでいったんだ。
食べに来てよと言われただけなんだけど
気分としては乗り込むだった。
山田との付き合いも長くなってきて
今年は山田11年だ。
山田うどん再評価運動を始めたのが2011年で、
そのタイミングでえのきどさんが「山田元年」と
言いだしたのだった。
僕たちと山田うどんとのかかわりについては
えのきどさんとの共著『愛の山田うどん』『みんなの山田うどん』に
詳しいのでここでは省く。河出書房新社から出た本で、
編集を担当したのはその後、編集者からライターに転身した武田砂鉄さんだ。

さて、長い付き合いをしてきた者からすると
今回の「埼玉タンメン山田太郎」本店のオープン(2021年7月15日)は、
山田の歴史において、ここ10年で1,2を争う出来事である。
最大の変化は、「山田うどん」から
「ファミリー食堂 山田うどん食堂」への屋号の変更だ。
前々から山田内部には、実態とイメージの間に
できている距離をなんとかしたい気持ちがあった。
うどん屋を名乗りながらラーメンもカツ丼も餃子もある業態で、
「うちは、うどんを看板メニューにした和風ファミレスみたいなもの」という思いだ。
わざわざ食堂という言葉を二度も使用しているあたりからも、
うどん屋イメージからの脱却を強く意識していることが
わかりすぎるほどわかる。

伝統の回転看板が消え、かかしのキャラクターの口が
「へ」の字から笑顔の「v」になったりして
山田ファンの度肝を抜いた屋号変更は、
世の中に温かく迎え入れられ(そういう細かいことを
気にする人は多くないのだ)、順調に定着してきた。
それがここへきての新業態投入。
かかしのマークを使っておらず、
ここを山田太郎本店とすることで、
本体との差別化さえ図っている。
山田うどんのネームバリューに頼らず、
タンメン1本でどこまでやれるか試したいのだ。
山田、勝負に出たと考えて差し支えないだろう。
(ほかには清瀬駅前に「県民酒場ダウドン」を出店している)

客が求めるメニューを積極的に取り入れてきた山田のことだ、
うどん屋なのにタンメン? という表向きの変化には
いまさら驚かない。
しかし、なぜタンメンなのか。
これはすぐピンときた。
タンメンに今勢いがあるとか、利益率がどうとか、
そういうことはよく知らない。
いまひとつ調子に良くない既存店を
タンメンの店に変えていく狙いもあるだろう。
あるいは「かかしラーメン」という山田の
ラーメンブランドを見直す意味も含まれているかもしれない。
コロナ禍で都心部への出店が減り、
ロードサイドはいま、チェーン店が生き残りをかけて激突する
合戦場となっているのだ。

僕から見ると、「埼玉タンメン山田太郎」の
目指すところは、ずばり女性客だ。
女性客こそ、安くて腹いっぱい、カロリーのK点越えを旗印に
頑張ってきた山田にとって、
欲しくて欲しくてたまらなかった、
パズルの最後のピースなのだ。
野菜たっぷりのタンメンには女性客を引き寄せる力がある。
そう考えたに違いない。
どこまで冷静沈着に練られた戦略なのかは定かじゃないが、
山田のやることは大きな流れをうまくとらえていることが
多いので、今回も「女性客が欲しい」という
執念が実る公算は大きいとぼくは思う。

所沢駅から車で走ること15分ほど、
埼玉タンメン山田太郎の看板が見えてきた。
「え…?」
僕とえのきどさんは思わず顔を見合わせた。
看板で目立っているのは「山田太郎」の文字なのだ。
この写真の向こう、見えないけど緑の屋根があるでしょう。
あそこにはほぼ山田太郎としか書かれていない。
ロゴマークはこれ。
山田太郎は人の名前である。どういう店なのかがきわめてわかりにくい。
えのきどさんがまず思い浮かべたのは「ドカベン」の山田太郎で、
これは作者があえてヒーローっぽくない名前として付けたそうだ。
僕は役所にある氏名欄の記入例を思い出した。
ありふれた名前の代表格である山田太郎が
どーんと看板になっているのはちょっとおもしろい。

『埼玉タンメン山田太郎』プレオープン会場には
社長がいて、先代の奥様がいて、
三宅工場長(いまはもっと偉いか)に
江橋部長(同)がいて、山田オールスターだった。

社長に店名の由来を尋ねると意外な返事が返ってきた。
「昔、ニューヨークに出店したときに使った『ラーメンTARO』を意識しました」
記念すべき新事業に、山田がアメリカに乗り込んでいったときの
店名を使ったのだ。
まあ、結果、山田太郎という
匿名性の高い店名になったわけだけど。
看板についても心配はしていないようで、
最初はわかりにくくても、いったん覚えたら忘れないで
いてくれるだろうと楽観的にとらえていた。
では食べてみよう。
この日はプレオープンのため2種類だったが
オープン後は6~8種類のタンメンが揃うそうだ。
ほかは餃子、普通のラーメンも1種類だけある。
えのきどさんが先陣を切る。
味の第一印象は?
おお、ガッツポーズでた!
僕も食べてみた。これは旨い。
中太麺をこの店のために開発し、
野菜は国産にこだわった本格派である。
山田といったら僕たちの認識は「なんだかホッとする味」というのが定番で、
旨いとかマズイとか、味をとやかく言うのは野暮だと
言い続けてきたのだけれど、埼玉タンメンは
味一本でも勝負できそうなメニューになっている。

タンメンに特化した専門店的なメニュー。
素材にこだわった「らしくない」旨さ。
今後は山田太郎の店舗を増やし、
山田うどんとの2本柱にしていきたいと意気込む。

それにしても楽しかったな。
タンメン食べに行っただけなんだけどさ。
帰り道にえのきどさんと話したことは、
「コロナって俺たちから今日みたいな
なんてことない時間を奪いやがったよな」だった。
「俺たちなんてのは、こういうなんでもない時間の中から
養分を得て生きてきたっていうのにさ」

皆さま、「埼玉タンメン 山田太郎」を応援よろしくお願いします。
いまでは希少となった回転看板