2021年5月1日土曜日

新刊発売 「犬と歩けばワンダフル」「そろそろ本気で信州移住」


狙ったわけではないのだけれど、昨年来執筆中だった2冊の本が4月後半に発行された。「犬」と「移住」。テーマの異なる本に共通するのは「信州」。僕にとって、7年半の信州暮らしの成果みたいな本たちである。

ひとつは犬の本。人生のほとんどを犬たちと過ごしてきたベテラン猟師と、イノシシやシカを追って行動を共にする猟犬たちを2年半追いかけたドキュメンタリーだ。

発行元である集英社の編集者に企画を持ちかけられたときは、どうしようかと少し悩んだ。僕は狩猟者免許を持ち、空気銃を使う猟師の端くれなので、狩猟は怖くない。銃声にも慣れているし、狩猟がどんなものか一応知っている。

問題は犬だった。ひとつには猟犬の世界を知らないこと。そしてもうひとつは、飼ったことがあるのはもっぱら猫で、犬に馴染みがないことだ。動物は敏感なので、猟犬たちを好きになれなければ、たぶん取材は失敗する。それでもやってみようと思った理由は、義母の愛犬をよく散歩させていたことと、探し当てた猟師の人柄、飼っている犬を始めて見たときに「怖い」ではなく「すごい」と思ったからだ。

手探りで始めた取材は、行き先のわからない旅のようなものだった。

狩猟シーズンが始まり、一緒に山へ入って猟犬と猟師がそこで何をし、何をしないかを観察する。犬の能力とはどんなものかを肌で感じる。それだけで1シーズンが過ぎた。

「青春と読書」で連載することが決まっていたので、先が見えないまま書き始めなければならなかった。不安だったが、書きたいことも見えてきた。猟犬を使う大物猟を題材にした、人と犬の物語を書きたい---。

ここから先、どういう思いがけないことが起きたのか。犬の能力はいかにすごいのか。人とのつながりはいかほどなのか。赤ちゃん犬はどのようにして猟犬になっていくのか。それは本を読んで確かめてほしい。

僕はこの本で、ドキュメンタリーを書く楽しみをまた発見してうれしかった。犬好きの人、狩猟に興味のある人に届くといいな。

発行:集英社、編集担当:出和陽子、撮影:小堀ダイスケ、彫刻:はしもとみお、装幀:島田隆 カバー・表紙写真:露木聡子

『そろそろ本気で信州移住 考え始めたあなたへ。先輩たちの本音アドバイス

2012年夏から2020年春まで7年半暮らした信州をテーマに本を作りたいと思ったのは、家の事情で松本を離れることになるだろうと思ったときだった。

松本にいるとき、移住エッセイ的なものを書きたいと思ったことはなかったが、離れる前提で考えてみると、信州への移住を希望する人の手掛かりになりそうな本は意外に少ないと気がついた。信州は広く、気候も違えば風景や名物料理も違うことに、移住者は住み始めてから気がつくことが多い。それは僕の実感でもあったので、本をつくるなら信州全域をカバーするものにしようと思った。

移住の動機、移住までの経緯、仕事をどうしたのか、住む場所はどのように見つけたのか、住んでみてどう思ったか。いいことばかりではなく、困った点も含め、リアリティのある、これから移住する人の参考になるものを作りたい。

そうなると、僕の個人的な体験では話にならない。そこで、著者という立場ではなく、編著者としてまとめ役をやろうと決め、各市町村の移住担当者の協力を得て人選を行い、アンケートを実施。回答を補足する形でインタビューを行うことにした。

進行中に勃発したコロナ禍のために直接会えた人は少なかったが、長野県在住のカメラマンと担当編集者がすべての人の元へ行き、撮影を行っている。地域の魅力を伝えるために、カメラマンが2度も3度も足を運んだ場所もあった。

オールカラーにしたのは、写真をしっかり見せたかったからだ。文章だけではなく、写真から伝わるイメージも大きい。移住を考える人にとって何が実用的かを考えた結果だ。

全35組の先輩移住者たちが何を思い、どう行動したか、その経験はきっと、これから移住する人の参考になるはずだ。

はからずも、コロナ禍によってリモートでの仕事が進み、移住も新しい局面を迎えている。偶然だが、いいタイミングで出版することができた。信州への移住を考え始めた人が、本書をそばに置いて検討の材料にしてくれたらうれしい。

発行元:信濃毎日新聞社、編集担当:山崎紀子、撮影:山浦剛典、ブックデザイン:中沢定幸