『いきどまり鉄道の旅』(河出文庫)が間もなく発売になる。
単行本が出てから6年経ってからの文庫化は、おそらく初めてのことだ。
このままフェードアウトかと思っていただけに、しみじみうれしい。
文庫になるのは発行された本の一部であり、その多くは単行本で実績を残したものだ。
さして売れなかった本が消えていくのは仕方がない。
ただ、この本は発売のタイミングがあまりにも微妙だった。
奥付を見ると初版印刷は2011年3月20日、初版発行は2011年3月30日。
あの東日本大震災直後の発行なのだ。
通常なら3月25日くらいから書店にならぶのだと思うが、
世の中そんな状況じゃなく、
のんびりした紀行文を読むたくなるような雰囲気はどこにもなかった。
やがて流通網が回復し、世の中が落ち着きを取り戻す頃になると、
そこに並ぶのは4月以降に発売された本たちである。
だから、ぼくにとってこのたびの文庫化は、ひっそりと
消えかけていた本が再デビューするようなものなのだ。
ほのぼのとした表紙から想像されるように、本書は盲腸線の終わり方を
見るためにあちこち出かけた紀行文で、
鉄道マニアが読んだら拍子抜けするくらい鉄分は薄い。
ぼく自身、鉄道にこだわりを持つタイプではないことを
お断りしておかなければならない。
紀行書を出すのは3冊目だが、最初はインド西端の村訪問記の
『ヒゲとラクダとフンコロガシ』という本、2冊めは古本屋を
訪ね歩いた『ぶらぶらヂンヂン古書の旅』、
そして今回がいきどまりを見る旅。
観光もせず、グルメにも走らず、何か一つ目的を持ってどこかへ
出かける"わざわざ旅行"ばかりである。そういうのが好きなのだ。
また、文庫ならではのものとして、
小坂俊史さんに
4コママンガ解説を描いていただいた!
乗った路線は以下のとおりである。
わたらせ渓谷鉄道、烏山線、真岡鐵道、横須賀線、久留里線、
水郡線、ひたちなか海浜鉄道湊線、名松線、加太線、水間線、
大井川鉄道、吾妻線、信越本線、上信電鉄、鶴見線、秩父鉄道、
東武小泉線、青梅線、五日市線、石勝線、東武佐野線、越美北線
出かけるたびにぼくは思った。
線路は続かないよ、どこまでも---
*なお、この本の単行本タイトルは
『駅長さん!これ以上先には行けないんすか』という、
僕がかつて書いた『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』を始めとする
裁判長シリーズを模したものだった。
雑誌に連載していた『いきどまり鉄道の旅』では弱いと言われて
そうなったのだが、自分としては『駅長さん!』はもっと弱いんじゃないかと
思っていたので、このたび変更してもらったのだ。
新原稿も入っているけど『駅長さん!』を持っている方は、
ほぼ同じものなのでダブり買いにご注意ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4309415598/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1500002752&sr=1-2&keywords=%E3%83%88%E3%83%AD+%E5%8C%97%E5%B0%BE